【82冊目】『翳りゆく夏』ー20年前の事件が…
Amazonの内容紹介より
「誘拐犯の娘が新聞社の記者に内定」。週刊誌のスクープ記事をきっかけに、大手新聞社が、20年前の新生児誘拐事件の再調査を開始する。社命を受けた窓際社員の梶は、犯人の周辺、被害者、当時の担当刑事や病院関係者への取材を重ね、ついに”封印されていた真実”をつきとめる。
あらすじ
本書は江戸川乱歩賞受賞作とのこと。そして受賞時のタイトルは、『二十年目の恩讐』。その受賞時のタイトルの通り20年前の事件と大きく関わっている作品です。
20年前の誘拐犯の娘が大手の新聞社「東西新聞」に内定が決まったところから物語はスタートします。その内容を週刊誌がスクープとして記事にしてしまったのです。本人はそこで内定を辞退しようと思うのですが、東西新聞としては何の関係もない本人はなんとしても入社させたい。
さらに「東西新聞」の大株主が20年前の事件をもう一度調べる内容の指示を社長に。その社長からの命令を受けた梶という社員がこの事件を追っていくという物語です。
感想
20年前の事件を調べるというのはとても難しいことだと思いますが、この梶という記者は優秀ですね。
当時の刑事がきちんと捜査していたらこうならなかったのでは?と思うほど、調べれば調べるほど矛盾点がでてくるのです。
梶が当時の担当刑事と話している部分でこんなやりとりがあります。
当時の警察の捜査が間違っていて、真犯人がいたらどうするのか?という流れから、刑事はこう言っています。
「その通り、新聞記者らしい物言いだ。だが、その可能性は万に一つもない。(略)」
「万に一つの可能性もない……か」
「そう、万に一つの可能性もない」
「だが全くのゼロというわけでもない」
本当に全くのゼロではなかったのです。そう、どうゼロではなかったのか?これは読書欲を駆り立てられます。
また印象的だった言葉がありますので、引用します。
目の見えない人の不自由さは目を閉じただけではわからない
この言葉は印象に残りましたね。
人の気持ちというのは、なかなかわからないということ。これは納得ですね。人の気持ちはなかなかわからないのにわかったフリなのか、わかった感じになっていることっていうのは多いと思います。
この小説でも関係する人の、状況や気持ちが書かれていますが、このなかなかわからない気持ちをなるべくわかるように上手に描写されていると思います。
☆☆☆☆☆
著者「赤井三尋」の作品は初めて読みました。読みにくさは全く感じない文体ですね。
本書はWOWOWでテレビドラマ化もされている小説です。テレビドラマでは、渡部篤郎が主演ということです。
このドラマも見てみたいですね。この小説は文句なしの、おススメですよ。